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女神たちの庭──歴史にみる"花を食べる"女性たち

The Garden of Goddesses — Women Who "Ate Flowers" in History

公開日:2025年12月20日|最終更新日:2026年02月12日

花冠をかぶり花びらを手にする女性──女神たちの庭のイメージ

序章:花を口にするという、ひそやかな祈り

A Quiet Prayer, Held on the Tongue

花を食べる。

この響きに、少しの驚きと、ほんの少しの不思議な違和感を覚える人は多いでしょう。
けれど、それは昔から世界のあちこちで、女性たちのあいだに息づいてきた、
とても自然で、深い行為でもありました。

花とは、命の最も繊細なかたち。
ひとつの芽が、光を求め、風を受け、雨に洗われて、
その短い一瞬を燃やすように咲く。
その一瞬を"食べる"ということは、
命の流れそのものを身体の中に迎え入れるということ。

古代の女性たちは、花を食べることで自然と一体になり、
神々の息吹を、自らの内に宿したと信じていたようです。
花を食べることは、ただの美容法でも、贅沢でもない。
それは「祈り」――
そして、女性が自分の中の"女神性"を思い出すための、
最も静かで、最も美しい儀式だったのかもしれません。

⚠️ 安全にお楽しみいただくために

この記事は、花を食べる文化的・歴史的背景をご紹介するエッセイです。

実際に花を食用にされる際は、以下の点にご注意ください:

※ご不明な点は、Salon de Alphaまでお気軽にお問い合わせください。

光の差す庭園に咲き誇る色とりどりの花々
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I. 古代ローマ──花蜜の宴とフローラの祝祭

古代ローマには、春の女神フローラを讃える祭がありました。
フロラリア――それは、冬の眠りから大地が目覚める瞬間を祝う日。
街中には花が飾られ、女性たちは花冠をかぶり、
花びらの散る中でワインを傾けながら歌い、踊ったと伝えられています。※1

当時のローマ社会では、自然の再生は女神たちの力によってもたらされると信じられていました。
花を食べ、香りをまとうことは、単なる装飾ではなく"再生の儀式"だったようです。
花の蜜を口にすれば、フローラの生命力が身体を巡り、
バラの花を味わえば、愛と官能のエネルギーが蘇る。
女性たちは、その象徴を直感的に知っていたのかもしれません。

バラは愛の神ヴィーナスにも捧げられ、
「花を食べる」ことは、愛と豊穣、そして生の喜びを体に刻む行為でもありました。
バラを口にすることが、愛を深める行為として語り継がれてきたのは、
そうした信仰の表れだったのでしょう。

花を食すことは、外から何かを得るのではなく、
自らの中に"神聖な愛"を呼び覚ますこと。
当時のローマ人にとって、花は「神と人を結ぶ橋」。
花を食べるという行為は、神聖な生命エネルギーを血と呼吸に混ぜること。
それは、神々の吐息を飲み干すような、きわめて官能的で霊的な体験だったと考えられています。

花冠と花びらに彩られた古代ローマの祝祭の情景
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II. ギリシャ神話──花を食べた女神たちの変容

花と女性をめぐる象徴の最も古い物語は、
ギリシャ神話の中に数多く息づいています。

ペルセポネは冥界でザクロを食べ、
それによって「季節」という循環を生み出しました。
地上に戻る春と、冥界に降りる冬――
その交わりの中心にあるのは、"花を口にした女神"の存在です。※2

ペルセポネがザクロを食べたことは、罰でも堕落でもなく、「変容の受け入れ」として解釈されてきました。
それは、生命が死を抱きしめ、再び生まれ変わることを知った瞬間。
花を食べるとは、変化を恐れず、自らの中に死と再生のリズムを受け入れることです。

また、アフロディーテはバラの女神として知られています。
叙事詩『キュプリア』には、美の三女神カリテスがアフロディーテの身体を「天上の油」で清めたとあり、
バラはこの女神の聖花として、愛の儀式や祭壇に欠かせないものでした。[1]
花の香りは、官能と霊性の境界を溶かすもの。
香ること、食べること、そのどちらも"神と人の間に立つ行為"として捉えられていたようです。

ギリシャでは花蜜や香草酒が「神々との対話の飲み物」とされ、
女性たちはそれを通して"感覚を神聖化"していたと考えられています。
花を食べるとは、自らの肉体を"神殿"として尊び、
魂を通して宇宙と調和する行為だったのでしょう。

ザクロとバラに囲まれたギリシャ神話の女神像
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III. 平安の庭──花を食すという、沈黙の言葉

時を経て、東の島国・日本でも、
花と女性のあいだには静かな霊性の交わりがありました。

平安時代、貴族の女性たちは四季の花々を衣に映し、
香に焚き、詩に詠み、そして時に"食"として取り入れました。
春の桜湯、秋の菊酒――それらは季節の力を身に宿すための儀式。
9月9日の重陽の節句には、菊の花びらを浮かべた酒を飲み、
長寿と浄化を祈りました。※3

宮中では、花や香草を薬湯にして用いることがあり、
それは「天と地の気を体に通す」ための習慣でもあったようです。
菊の露を含ませた綿で肌をぬぐう「菊の被綿(きせわた)」は、
まるで女神の美容法のよう。
花の露を肌にまとわせることで、
"天の力"を地上の女性の身体に移す――そんな信仰があったと伝えられています。※4

花は、女性の感情そのものでした。
愛、孤独、祈り、そして沈黙。
恋文に花を添えることは、言葉にならない想いを託すこと。
花を食すことは、その想いを自らの中に取り込み、
愛を"自分の中で育てる"行為でもあったのでしょう。

花を食べるとは、語らずして語る、女性の沈黙の祈りなのです。

菊の花を浮かべた盃と平安の庭の秋景色

🫧 Salon de Alpha のカウンセリングから

カウンセリングでハーブティーをお出しするとき、季節の花を一輪、ティーポットに添えることがあります。カレンデュラの橙、マロウの青紫、エルダーフラワーの白。目で花の色を味わい、立ちのぼる湯気の中にほのかな香りを感じていただく――その静かなひとときが、言葉よりも先に心をほどいてくれることがあります。

平安の女性たちが花に託した「沈黙の祈り」は、形を変えて、いまもサロンの小さなテーブルの上に息づいているように感じます。

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IV. フランス宮廷──甘い花の誘惑と、女たちの自由

18世紀のヴェルサイユ宮殿。
バラとスミレの香りに包まれた晩餐の席で、
マリー・アントワネットは花を愛した女王として知られています。

ルイ16世は妻にプチ・トリアノンを贈るとき、こう言ったと伝わります。
「花がお好きでしょう。だからこの花束をあなたに」。
女王はこの小さな城を「私の家」と呼び、バラ、スミレ、チューベローズ――
2000本を超えるバラの苗を植えさせ、花に埋もれる庭をつくりました。[2]
調香師ファージョンは庭の花々を蒸留し、女王だけの香りを調合したと記録されています。[3]

花の砂糖漬け――カンディード・バイオレット。
ローズのコンフィチュール、オレンジの花のシロップ。
それらは、美と愛、そして女性の知恵を凝縮した"小さな魔法"でした。※5

花を食べることは、外見の美しさを誇示するためではなく、
"香りを通して内面の神聖さを目覚めさせる"ためのもの。
宮廷の女性たちは、それを直感的に知っていたのでしょう。

かつてのヨーロッパでは、薬草を煎じ、花や香を操る女性たちの知恵が
「魔女」の烙印を押されることもありました。[4]
花の香りや食は、女性が自らの感情や身体を理解し、癒やすための知識。
それは権力者にとっては"脅威"でもあったのです。

花は、女性を祝福し、そして束縛する――
その二面性の中で、女性たちはいつも自由を探し続けてきました。
花を食べることは、社会が決めた"女性らしさ"を越えて、
本当の"女性の力"を取り戻すための、ひそやかな抵抗でもあったのかもしれません。

スミレの砂糖漬けとバラのコンフィチュール──フランス宮廷の花の菓子
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V. 花の力──身体と魂を癒す女神のレシピ

古代の知恵は、植物を通して生き続けています。
花には、目に見えない"霊的な作用"があると信じられてきました。

█ ローズ ― 愛と自己受容の香り

ローズは古くから、心をひらき、傷ついた自己愛をやさしく包む花とされてきました。
古代エジプトでは、クレオパトラがバラの花びらを浮かべた湯で沐浴したという逸話が広く語り継がれています。[5]
ローズを食べることは、自分を愛する練習でもあるのでしょう。

█ ラベンダー ― 浄化と癒し

ラベンダーは悲しみを癒し、静かな眠りを招く香りとして知られてきました。
花びらをお茶に浮かべると、心の奥に沈んだ記憶がそっと溶けていくようです。
古代では「悪夢を遠ざけるハーブ」として用いられていたと伝えられています。

█ カレンデュラ ― 太陽を宿す花

オレンジ色のマリーゴールドは、光の象徴。
落ち込んだときに花びらをスープに散らせば、
太陽のエネルギーが胸の奥をあたためてくれるような感覚があります。

█ ジャスミン ― 官能と創造のエネルギー

※食用は主にアラビアンジャスミン系(Jasminum sambac)

夜咲くジャスミンは、月の花。
その香りは感情を揺らし、生命のリズムを呼び戻すと言われてきました。
「ジャスミンの香りを吸えば、魂が踊り出す」――
そんな表現が、古くから語り継がれています。

█ スミレ ― 沈黙と記憶の花

スミレは、声高に主張しない花。
その小さな紫は、胸の奥にしまわれた記憶にそっと触れます。
砂糖漬けやシロップとして食されてきたこの花は、
古くから沈黙の花と呼ばれ、語られない愛や悲しみをやさしく癒すと信じられてきました。

花を食べることは、体と魂のあいだに橋をかけること。
五感のすべてを通して、「いまここに生きている」という歓びを思い出すことです。

ローズ、ラベンダー、カレンデュラ──花のハーブティー素材

🫧 サロンから:花の名前を声に出してみる

カウンセリングの中で、数種類の花やハーブの香りを嗅いでいただくことがあります。そのとき、「これ、好き」「これはちょっと苦手」という反応は、おひとりおひとりまったく違います。同じラベンダーでも「懐かしい」と感じる方もいれば、「少しツンとする」と仰る方もいます。

花の好みに正解はありません。その日の心と身体が、いちばん必要としている香りに手が伸びる。そのことを信じて、おひとりおひとりの声に耳を傾けることを大切にしています。

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VI. 現代に蘇る"花を食べる"知恵

エディブルフラワー、ハーブティー、フラワーエッセンス。
現代の私たちは、知らぬ間に"花を食べるという感覚"へと、
もう一度、静かに立ち返っています。

桜の花を浮かべた湯呑を手にするとき、
ラベンダーの香りに包まれて眠る夜、
ローズのゼリーをひとくち味わう瞬間――
そのすべてが、古代から続く女神の記憶を呼び覚ます行為なのかもしれません。

花を食べるとは、自然と再び会話をはじめること。
忙しい日常のなかで忘れてしまった「循環」の感覚を取り戻すこと。

花の色は、心の色。
花の香りは、記憶の扉。
そして花の味は、魂が何度も思い出そうとする"原初の味"。

小さな花を口にするとき、
それは自然と人、女性と神聖のあいだにかかる、
古くてやさしい橋のようなもの。

ハーブティーにエディブルフラワーを浮かべた現代の花のある暮らし
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終章:花のように生きるということ

花は、ただ咲くだけで世界を変えます。
香りを放ち、色を映し、風に揺れながらも、
何も語らず、ただ"在る"という存在の完全さ。

女性もまた、本来はそうした存在なのでしょう。
外に何かを足さなくても、誰かに認められなくても、
そのままで、すでに"花"なのです。

花を食べるという行為は、外側に神を探すことをやめ、
自分の中に"神聖な庭"があることを思い出す儀式。

あなたが花を食べるとき、
それはあなたの中の女神が微笑む瞬間です。
花は、あなたがどんな存在であるかを静かに思い出させてくれます。

――花を食べる。
それは、美と命、祈りと愛、
すべてをひとつに結ぶ、古くて新しい"女神の記憶"なのです。

私たちのサロンもまた、
そうした記憶にそっと寄り添う場所であり続けたいと願っています。


  1. フロラリア … 古代ローマで女神フローラを讃えた春の祝祭。4月28日から5月3日にかけて行われ、花冠・色鮮やかな衣装・演劇・競技で豊穣を祝った(オウィディウス『祭暦』第5巻)。
  2. ペルセポネの神話 … ギリシャ神話において、冥界の王ハデスに連れ去られたペルセポネが冥界でザクロの実を食べたことで、一年の一部を冥界で過ごすことになり、これが季節の変化の起源とされる(『ホメロス風讃歌 デメテル讃歌』)。
  3. 重陽の節句 … 9月9日の節句。菊酒を飲み、菊の花を愛でることで長寿を願う風習が平安時代から伝わる。『延喜式』に宮中行事としての記載がある。
  4. 菊の被綿(きせわた)… 重陽の節句の前夜、菊の花に綿をかぶせて露を含ませ、翌朝その綿で肌を拭うことで若さを保つとされた平安時代の風習。『枕草子』『紫式部日記』にも記述がみられる。
  5. フランス宮廷の花の文化 … 18世紀のヴェルサイユ宮殿では、スミレやバラの砂糖漬け、花の香りのシロップなどが貴族たちに愛されたことが記録に残っている。

📚 参考文献

  1. Stasinus of Cyprus (or Hegesias of Aegina), Cypria, Fragment 6 (7th–6th c. BC); Athenaeus, Deipnosophistae 15.682 — カリテスがアフロディーテの身体を「天上の油」で清める場面。バラはアフロディーテの聖花とされた。
  2. Walton, G. (2019). "Marie Antoinette and Her Passion for Flowers." geriwalton.com; Feydeau, É. de (2013). From Marie-Antoinette's Garden: An Eighteenth-Century Horticultural Album. Flammarion — ルイ16世の「花束」の言葉、2000本のバラの記録など。
  3. Historiae Secrets, "Bouquet du Trianon" 製品解説 — 調香師ジャン=ルイ・ファージョンがプチ・トリアノンの花々を蒸留し女王専用の香りを調合した記録。
  4. Levack, B.P. (2006). The Witch-Hunt in Early Modern Europe, 3rd ed. Pearson Longman — ヨーロッパの魔女狩りは15〜17世紀に集中し、薬草の知識をもつ女性が標的となった歴史的背景。
  5. プルタルコス『対比列伝』アントニウス篇 26–29章 — クレオパトラの魅力と豪奢な生活を詳述。バラの花びらの沐浴は直接の記述はないが、広く語り継がれる伝承。
  6. Ovid, Fasti, Book V — フロラリア祭の詳細な描写。花冠、色とりどりの衣装、夜の灯火について。
  7. Homeric Hymn to Demeter (7th c. BC) — ペルセポネの冥界降下とザクロの神話の原典。
  8. 『枕草子』『紫式部日記』『延喜式』 — 平安時代の重陽の節句、菊の被綿、菊酒の風習に関する記述。

(Author: Etsuko Fukunaga, Founder of Salon de Alpha)